非常に特徴的なチューニングで、良くも悪くも話題の完全ワイヤレスイヤホン「final ZE8000」を購入したので、レビューをお届けします。
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final ZE8000の主な特徴・価格
final ZE8000の価格は36,800円(税込)で、Apple「AirPods Pro」やSONY「WF-1000XM4」、ゼンハイザー「MOMENTUM True Wireless 3」等と価格が近いハイエンドのワイヤレスイヤホンです。
final ZE8000の主な特徴は以下の通りです。
サウンド
✅aptX Adptiveコーデック & Snapdragon Sound対応
✅独自の新しいサウンド体験「8K SOUND」
✅13mmの大型ドライバー搭載
✅ANC&外部音取り込み対応
✅イコライザー&細かな音量調節に対応したアプリ
✅ビームフォーミング技術によるクリアな通話
✅多少の雨や汗を防ぐIPX4防水
✅5分で45分の音楽再生が可能な急速充電対応
✅イヤホン単体5時間、ケース込で15時間再生
最大の特徴は、「音域、楽器や声のどこに注意を向けても、奥行きも含めて全てにフォーカスが合うという初めての体験」を提供するという「8K SOUND」。ところが、実際に聴いた人たちの感想は賛否両論なので、筆者も購入して確かめてみることにしました。
今回は、特にその音質と「合う曲・合わない曲」に重点を置いたレビューをお届けします。実際に使って感じた「良いところ」「良くないところ」はまとめをご確認ください。
final ZE8000の本体や同梱品をチェック
内容物
final ZE8000のパッケージです。シンプルながら大きな箱には本体イメージが描かれています。
上蓋を開けるとイヤホンやケース、解説書などが登場。完全ワイヤレスイヤホンの多くは、最初からケースに入っているものが多いのですが、final ZE8000は分けて入れられていました。
シンプルながら、白と黒でシックにまとめられた中身に、ハイエンド製品ならではの高級感を感じます。
本体および付属品は以下の通りです。
ポイント
・イヤホン本体
・充電ケース
・専用イヤーピース
・USB Type-C 充電ケーブル
・アコースティック治具
・ダストフィルター
・取扱説明書等
他社のワイヤレスイヤホンにはあまり見られませんが、チューニングの際に、フィルターの粘着部を押して固定する「アコースティック治具」や、ダストフィルター等が付属します。
final ZE8000はイヤーチップの形状が非常に特殊。SS/S/M/L/LLサイズのイヤーチップが付属します(Mサイズは最初からイヤホンに取り付け済み)。
独特の加工や形状が印象的
final ZE8000は、イヤホン自体の独特の形状もさることながら、イヤホンとケースに施されたザラついたシボ加工が特徴的です。
イヤホン本体とケースに刻まれたfinalロゴも印象的です。
ケースは独特のイヤーチップを収めるためかかなり余裕のある作りです。
開閉はスライド式。パカッと開けるタイプなので、上側に開けようとして破壊しないようにしましょう。
ケースは手をはみ出しはしないものの、かなり大型の部類。ただし、樹脂素材となっているためズッシリ感はなく、かなり軽めです。
そして、イヤホン自体も大型の部類。角ばったスティック、大きなハウジング、独特な形状のイヤーチップの組み合わせは異様さすら感じます。
イヤホンを側面から見るとその形状の特殊さがはっきりと分かります。「シンプル」とは真逆のデザインです。
外側のスティック部分にはタッチセンサーと複数のマイクが備わっています。
スティック部分は長めで存在感があります。
final ZE8000の音質と「合う曲」「合わない曲」をチェック
それでは、final ZE8000の実際の音質をチェックしていきますが、final公式がTwitterで以下の投稿をしています。
ZE8000はfinalの技術目標である「現実と区別がつかないImmersive Experience(完全な没入体験)の実現」に重要な位置づけとなる製品として開発いたしました。結果、上記のデジタル信号処理の研究から導かれた、イヤホン設計の定石とは異なる極めてフラットな音圧周波数特性となっています。 pic.twitter.com/mxNVFioMnR
— final (@final_audio) December 15, 2022
ツイートにもあるように、チューニングはかなり特異。通常のイヤホンでは、人間の耳に良く(心地良く)聴こえるチューニングを施す結果、周波数にもっと波があるのが当たり前なのですが、final ZE8000は山も谷もないフラットなものとなっています。
この時点で非常に興味深いのと同時に、一抹の不安も覚えるのですが、やはりイヤホンは自分の耳で確かめてこそ。実際に聴いて確かめていきましょう。
音質の特徴
筆者が実際に聴いた感想としては、音楽を「音で出来た論文」に変えてしまうイヤホンだと思いました。高・中・低音域のそれぞれの感想は以下の通りです。
ポイント
高:クリアで非常に伸びやか。アコギや弦楽器の音が非常に美しく、余韻が素晴らしい
中:ノイジーさがなく、ストレートな印象。クリアなボーカルが楽しめるが、特にフラットさを感じる部分
低:量感があり立体的。一聴すると一番目立つ部分だが、決して低音域の強さで誤魔化している訳ではない
なお、視聴環境はXperia 5 IVにSnapdragon Sound(最大24bit/96kh)で接続。独自アプリ「final connect」で「8K SOUND+」をONにしています。
8K SOUND+ とは
デジタル信号処理における演算能力を限界値まで高めることで、超高精細な音色「8K SOUND」をより一層楽しめるモード
一聴するとフラットと言うよりも低音が目立つ印象ではあるものの、中音域が潰れているかというとむしろ逆。高・中・低すべての音が聴こえてくるという意味でフラットと感じます。音場も非常に広いです。
そのため、初めは論文のような情報量に困惑するのですが、慣れてくるとむしろ他のイヤホンが物足りなくなります。この点では正に「8K SOUND」と名乗るにふさわしいでしょう。
一方、音にピークがなく悪く言えば平坦。サビで一気にテンションが上がる曲でも、A・Bメロと変わらないテンションでサビに入ってしまう感覚があります。
それでは、様々なジャンルの曲をfinal ZE8000で聴いた感想をまとめていきます。
J-POPに合わない曲が多い。特にアニソンとアイドルソング
初めに言っておくと、上述の通り音にピークがなく悪く言えば平坦です。多くのJ-POPのヒットソングはサビで一気にギアの入るものが多く、こういった曲が合わないように感じます。
AKB48『言い訳Maybe』
AKB48のヒット曲は典型的なJ-POPサウンドのものが多いです。軽めのロックサウンドに分厚いコーラス、指一本あればピアノで弾けるシンプルなメロディー、サビで一気にピーク......日本人の耳に馴染み深い音ですが、特にサビに入るところで違和感が強いです。
音圧が上がらずピークなくヌルッとサビに入っていくので、やはり盛り上がりに欠けます。
[Alexandros] 『ワタリドリ』
疾走感のあるキャッチーな曲なのですが、final ZE8000だと山なく谷なく進んでいくので、あっさり曲が終わってしまう感覚があります。特に最後のサビの爆発力がありません。
final ZE8000は、一つ一つの音の再現性や生々しさは素晴らしいのですが、メリハリが強めにつけられている曲と相性はあまり良くないでしょう。
徐々に盛り上がっていく曲ならJ-POPも悪くない
では日本の曲は全く合わないのかと言えば、そうではありません。
Aimer『ONE』
Aimerの『ONE』はアップテンポの曲ですが、徐々に盛り上がっていくタイプで、こうした曲との相性は悪くありません。テクノやハウス等の電子音のダンスミュージックとの相性も良いです。
シティポップとの相性が良い
シティポップは、洋楽志向の都会的な洗練された雰囲気の日本独自ジャンルですが、final ZE8000に合う曲が多いです。
DADARAY『イキツクシ』
量感のあるベースと落ち着きのあるキーボード、情感たっぷりのボーカルは(そして極端なメリハリがない)、final ZE8000の得意とするところでしょう。
洋楽ロックとの相性が良い。レッチリが最高過ぎる
Red Hot Chili Peppers(以下レッチリ)は、80年代に結成された非常に有名なアメリカのロックバンドです。
Red Hot Chili Peppers:Dani California
ベースが目立つ曲が多いのですが、final ZE8000で聴くとベースの生々しさが尋常ではなく、最高過ぎました。
ダウナーな曲は合う
落ち着きのある曲が合うのは前述の通りですが、ダウナーでアングラ感のある曲も当然合います。
MONDO GROSSO『STRANGER』
MONDO GROSSOの『STRANGER』は、齋藤飛鳥(乃木坂46)をボーカルに迎えた曲ですが、ジャンル的には直球のシューゲイザー。
フィードバックノイズを重ねることで浮遊感や陶酔感を演出するジャンルですが、棘のある音だとノイズがうるさく感じるので、それがないfinal ZE8000とは相性抜群。抑揚を抑えた儚げなボーカルにも良く合います。
情報量の地獄みたいな曲も聴いてみたが最凶に地獄だった
どうせサビでパーッと花開くような陽キャな曲は合わないので、最凶レベルにアングラで情報の洪水みたいな曲も聴いてみました。
Deathspell Omega『Wings of Predation』
ブラックメタルは幅広いヘヴィメタルの中でも特に混沌とした音楽ジャンルですが、手数の多いドラムを中心として最初から最後まで情報量の洪水です。
情報量が多すぎてリスナーが疲れるとかそういうことは初めから考慮されていないので、聴くのにも理解するのにも体力がいりますが、final ZE8000はさらに情報量を増やしてくれるのですごく地獄でした。
真面目に説明すると、きっちり整理された音を楽しむというより、洪水のような混沌感を楽しむならアリかと思います。
その他の機能や特徴をチェック
独自アプリについて
final ZE8000は独自アプリ「final CONNECT」があります。
前述の「8K SOUND+」のON/OFFのほか、イコライザーやボリュームステップ最適化機能に対応しています。
ANC・外部音取り込みについて
final ZE8000はアクティブノイズキャンセリングや外部音取り込みに対応しています。
外部音取り込みは「チュルチュルチュル」というノイズが発生するようになるので実用外です。ノイズキャンセリングはそれほど強くないものの、普通に使えるレベルで、触れ込み通り音質に影響がないと感じました。基本的にはONにしておくと良いでしょう。
装着感・操作感について
final ZE8000の独特の形状ながら装着感は良く、耳にしっかり固定できます。圧迫感もそれほどなく長時間音楽を楽しめます。
一方、イヤホン自体が大きいうえにかなりはみ出して目立ちます。外で使うと人の眼が気になるかもしれません。
タッチセンサーのレスポンスは良好です。タッチセンサーは1・2タップか長押しで再生・一時停止や、着信などの操作が行えます。また、5回タップでSiri/Googleアシスタントが使えます。
ただし、ケースから取り出す時にタッチセンサーに触れてしまい、ノイズキャンセリングと外部音取り込みが切り替わってしまうことがあるので、注意が必要です。
バッテリー持ちについて
final ZE8000のバッテリー持ちは、イヤホン単体5時間、ケース込で15時間再生と短めです。
特に「8K SOUND+」をオンにしているとさらに短くなり、体感的にもはっきり持たないと感じるレベル。他社製品と比べても2/3~半分くらいしか
通話品質や防水性能について
通話音質はかなり良い印象で、相手の声はクリアに聴こえますし、もちろんこちらの声もはっきり伝わりました。また、IPX4防水に対応しています。
IPX4
あらゆる方向からの水の飛まつを受けても有害な影響を受けない。
final ZE8000のスペック
final ZE8000のスペックは以下の通りです。
final ZE8000 | |
ドライバー | 10mm ダイナミックドライバー 「f-CORE for 8K SOUND」 |
コーデック等 | SBC / AAC / aptX / aptX Adaptive Snapdragon Sound対応 |
ANC | 対応 |
外部音取込 | 対応 |
タッチ操作 | 対応 |
アプリ | 専用アプリ「final CONNECT」 ▷Google Play、▷App Store |
通信 | Bluetooth 5.2 |
防水 | IPX4 |
電池 | ANC ON時 イヤホン:5時間 ケース込:15時間 |
充電 | USB Type-C イヤホン:約1.5時間 充電ケース:約2時間 |
重量 | イヤホン:6.8g(片方) ケース:65g |
カラー | ホワイト, ブラック |
ソース:final
final ZE8000 レビューまとめ:細かいことは気にするな。8K SOUNDを感じろ
final ZE8000のレビューをお届けしました。実際に使って感じた「良いところ」「良くないところ」は以下の通りです。
良いところ
✅全ての音が聴こえる!圧倒的情報量の8K SOUND
✅特異な形状ながら意外と耳にフィットする
✅音質に影響を与えないノイズキャンセリング
✅かなり細かいイコライザー&ボリュームステップ機能
✅通話はクリアで〇
良くないところ
✅ピークのないチューニングのため曲を選ぶ
✅不快なノイズが発生する外部音取り込み
✅ケースから取り出す時にタッチセンサーに触れてしまいがち
✅イヤホンが大きく目立つ
✅バッテリー持続時間が非常に短い
✅無線充電・着脱検知・マルチ接続非対応
final ZE8000の音質は完全ワイヤレスイヤホンの中でもトップクラス。ありとあらゆる音が聴こえるという点では他の追随を許しませんが、他にない特異なチューニングゆえに慣れが要求され、合わない曲もあります。
また、バッテリー持ちが非常に悪いことや、無線充電・着脱検知・マルチ接続に非対応であること、お世辞にも完成度が高いとは言えない外部音取り込みといった問題も抱えています。
しかし、final ZE8000の購入を検討するような方は、その音質に魅かれる方が大半でしょうから、細かいことを気にするのは野暮と言うもの。圧倒的情報量の8K SOUNDは他にないものなので、是非とも体験して貰いたいです。
価格は36,800円(税込)と安くありませんが、この音が体験できるなら個人的には全然アリだと思いました。